その他

過去に行った講演の幾つかを掲載しています。

「摂食障害」

 食事を食べられない、もしくは食べては吐いてしまうという状態は近年増加傾向にある。実際、女性の体型のスリム化は徐々に進んでおり、摂食障害の背景にある文化社会的要因と考えられる。ダイエットは手軽に体重を落とす方法であるが、一歩間違えると食事のことだけに関心が集中するようになり、気分のむらや様々な行動上の問題が生じてくる。さらに拒食症といってもよい状態になると、極端な痩せが目立ち、それにもかかわらず本人は痩せているという自覚に乏しく、少しでも体重が増えると不安になったりする。また、生理が止まることも多い。逆に過食症になると、無茶食いをしたあとに吐いたり、体重を落とすために下剤や利尿剤を使うこともある。体重は発病前とそれほど変わらないため、周りの人から気づかれることが少なく、本人が一人で悩むというケースが多い。
 原因としては文化社会的要因の他、家族内の問題などの心理的要因、脳の機能異常などが考えられている。治療は症例に応じて、認知行動療法やカウンセリング、薬物療法などを組み合わせて行うことが多い。

  • 「現職者研修会」 会場:愛知県立刈谷高等学校

「ストレスとうつ」

 近年、自殺者の数は年間三万人以上にも達し、今や深刻な社会問題にもなっている。この中には様々なストレスからうつ病を発症し、十分な治療が受けられないまま自殺に至ったケースも数多く存在すると思われる。このような観点からもうつ病の早期発見、早期治療が必要である。しかし現状は「うつ」になるのは精神力が足りないせいであると本人自ら受診をためらったり、周囲の無理解のため、まだまだ治療システムが円滑に機能しているとは言い難い。うつ状態は多くの人が一生のうちに一度は体験するものであり、したがってうつ病の正しい理解とストレスからうつにならないよう身を守る工夫が大切である。
 うつ病になると物事の捉え方に歪みがみられるようになる。逆に言えば日ごろからそのような考え方の偏りが生じないように心がける必要がある。例えば、確かな根拠がないままに結論を急いだり、成功か失敗かという両極端な考え方をしたりすることなどを避けるようにすることが大切である。また職場の配置転換などストレスとなった状況を変えていくことや、場合によっては休養をとりストレスから開放されることが「うつ」を深刻化にしないために必要である。

  • 「精神衛生講話」 会場:刈谷税務署

「認知症の予防は可能か?」

 高齢化社会を迎え、我々はいかに健康を保ち充実した人生を送るかが重要な問題となってきている。しかしながら、加齢とともに脳の機能の衰えは避けられないものである。したがって年齢が増すほど認知症の発症率が増すのは当然の現象である。ある人がいわゆる正常なボケの範囲内で収まるのか、一歩進んで認知症といわれる病的な状態になってしまうのかは何によって決まるのであろうか?
 認知症になりやすいタイプは、認知症の家族歴、収縮期高血圧、高コレステロール血症、うつ病の既往などがある人たちであることがわかりつつある。逆に認知症になりにくいタイプは、人との交流が多い人、果物、野菜、魚などのよく摂取する人、定期的な運動をしている人などであるといわれている。しかしながら今のところ、こうすれば認知症を防ぐことができるという厳密な方法に基づいた研究データは残念ながらないといってよい。そうした状況の中でとりあえず我々ができることとしては、認知症の危険因子といわれる疾患の治療を適切に行うこと、会話、運動、レクレーションなどを通じて常に脳を刺激すること、適切な食生活を営むことなどであろう。

  • 「老人健康教室」 会場:高須市民会館

「ストレスについて」

 ストレス社会ともいわれる今日、ストレスを感じずに生活できる人はほとんどいない。ストレスは私たちの精神や身体の正常な機能をともすれば障害してしまう。ストレスが原因で生じる心身の異常は、精神面では不眠、抑うつ、不安、行動面ではアルコール依存、過食、拒食、身体面では潰瘍、下痢、蕁麻疹などがあげられる。日ごろから自分にとってのストレスとはどんなものか、自分にどんな影響を及ぼしているか、またいかにそれに対処していくかを知っておく必要がある。
 勤労者を対象にした研究では、精神の健康度には家庭生活での満足度より職場生活での満足度の方が重要な影響を持っているといわれている。したがって職場におけるメンタルヘルスは私たちがまず取り組まなければならない課題である。精神の健康に及ぼす影響が強いものとして、「仕事のトラブルが多い」「責任を持つ範囲が多すぎる」などが指摘されている。これらのストレスに対処するためには、職場における状況を変えていくこと、ストレスに対する抵抗力を高めていくこと、ストレスとなる状況を避けることが大切であり、早期の対応が事態を深刻化させないために重要である。

  • 「労働衛生週間説明会」 会場:愛知県産業技術研究所 

「思春期外来における学校との連携の取り方」

 思春期はアイデンティティーを確立する上で重要な時期であり、その躓きから様々な精神症状、身体症状が出現する。中学生、高校生がメンタルな問題を抱えたとき、学校側として出来ることは何か、また医療にどう結びつけてしていくべきかを教職者は考えなければならない。
 医療機関を紹介した方が望ましいケースは、常識的に理解できるような心理過程を逸脱するような状態、もしくは身体症状が強く現れている場合などである。紹介先は症状や本人の病識の程度に応じて、内科、小児科、心療内科、精神科のいずれかを選択することになろう。本人が受診を拒んだ場合は、まず両親に医療機関に相談に行ってもらうことが良いことがある。その後、両親の説得によって受診が可能となったケースは多く、まずは試みるべき方法のひとつである。学校側は受診前後で病院側に本人に関する情報提供をおこなっても良いだろう。しかし、この際に心掛けなければならないのはプライバシーを尊重する姿勢である。本人の同意を得ながら情報を共有した結果、病院側から治療方針が提示されることが望ましい。このような円滑な連携によって十分な治療が期待できる。

  • 「愛知県私学協会学校保健研究会」 会場:ウィルあいち 

「ストレスの解消法について」

 ストレスに晒された時、私たちは誰に教えられたわけでもなく、それぞれの対処法でストレスを乗り越えている。しかし、それがうまく機能しなかったときに心身両面に様々な障害が生じてくる。
 ストレスを解消するために、たとえば休養して体をいたわったり、趣味を見つけたり、様々なストレス解消技法を利用したりすることが出来る。これらの中のひとつの方法として、認知の再検討がある。これはある出来事に対し、自分の捉え方(認知)の特徴をまず把握することから始まる。そして自分の不都合な行動パターンや認識を自覚し、ストレスを乗り越えるために必要な行動面、認知面の強化を図ることである。つまり現実を正しく理解せず、ただいたずらにマイナス志向になるのではなく、起こった出来事に対してより客観的に捉えなおし、様々な可能性を想定することが重要となってくる。自分の認知に対する疑問を持ち、より合目的的な考え方、行動をとることによってストレスへの抵抗力を高めることができる。

  • 「精神保健研修」 会場:刈谷市民会館

「うつ病からくる自殺」

 1998年以降、年間の自殺者は毎年3万人を超えている。特に中高年男性の自殺率の増加がその大きな要因となっている。その背景には長引く不況、そのためのリストラなどが考えられる。しかし、ほとんどの人は生活状況が悪くなったからといって、理性的に死を選択するとは考えにくい。そこにはうつ病などの精神疾患が介在し、そのために判断能力、問題解決能力の低下をきたし、不幸にも死を選択してしまう可能性がある。したがって、いかに早期にうつ病などを診断し、治療に結びつけるかが今後の課題となるであろう。
 しかし残念ながら今のところ、うつ病の医療機関への受診率はかなり低いのが現状である。自殺の直前に身体症状などを訴えて精神科以外の医療機関を受診する割合は半数以上といわれているが、その中でうつ病として適切に治療されているケースはわずかである。その理由として、うつ病に対する認識の低さ、受診への抵抗感が存在するものと思われる。特に日々孤軍奮闘している中高年男性は自己責任を感じやすく、現在の状況をただ自分の気の弱さによるものと捉えやすいことが受診率の低さの一因と考えられる。

  • 「中高年の自殺予防研究会」 会場:衣浦東部保健所